2015年5月に空き家対策特別措置法が完全施行されたことにより、危険度の高い空き家に対して法的に改善を要求することができるようになりました。
改善の指示や命令に従わない場合には、所有者に変わって行政が強制的に撤去や修繕をすることができるのです。
ただし行政代執行はいきなり発動するものではなく、いくつかの段階を経る必要があります。
そこでこの記事では、行政代執行になるまでの段階と必要な対策をまとめました。
空き家法での行政代執行は、行政が空き家の所有者に変わって空き家の強制撤去など必要な措置をおこなう(執行する)ことです。
では空き家に対してどのような措置をとるのかというと、
といった措置が適用されます。
この他にも必要な対策があれば、適宜実施することになります。
空き家法で行政代執行がされると、強制的に解体や修繕がされるのだから所有者は費用がかからず得になるのでは?と思う人もいるかもしれません。
たしかに委託した業者に対しては行政が費用を支払いますが、これは一時的に肩代わりしているだけに過ぎません。
その後、実費分を行政から所有者に請求することになりますので、実質は所有者負担です。
ではどのような状況で行政代執行が言い渡されるのでしょうか?執行されるまでの段階として4つの段階がありますので次の項目で確認していきましょう。
行政代執行となるまでには下記5つの段階があります。
行政代執行は5番目の段階、つまり最終手段です。ではそれまでの流れを順番に確認していきましょう。
まず、倒壊の危険や周囲への悪影響があると思われる空き家に対して、自治体による立ち入り調査が行われます。
そこで問題のある空き家と判断されると「特定空き家」として指定されます。
ちなみにこの立ち入り調査は法律に基づくものなので、立ち入りを拒否すると罰金を支払うことになります。
特定空き家の判断条件は下記です。
特定空き家は行政の助言・指導のもと、改善しなければいけません。ここで従わなければ次の段階へと進みます。
助言・指導したにも関わらず改善がされなければ、勧告がされます。
勧告がされると固定資産税の軽減措置が撤廃され、最大6倍の固定資産税を支払わなければいけません。
勧告にも応じない場合は改善命令がされます。
これは行政処分となるので、命令後一定期間の間に改善がされなければ50万円以下の罰金となります。
助言や指導、勧告、命令をしても応じない、改善が完了していない場合には、行政代執行が言い渡されます。
その後一定期間内に改善が完了しなければ、空き家の強制撤去など解体や修繕の措置が取られます。
具体的な期間は示されていませんが、1回目の助言・指導がされた後、約1年程度で行政代執行が実施されることが多いようです。
行政代執行で請求される費用は、解体や修繕の規模によってまちまちですので、これといった費用相場はありません。
一般的な解体費用であれば、木造一戸建ての住宅で100万円~200万円が相場となります。
ただし行政代執行の場合、業者選びは行政職員が行いますので相場より高い可能性も多いにあります。
なぜなら自分で業者を探すときのように相見積もりをとる必要や、最安値の業者を探す必要もないからです。
行政代執行にかかる費用は国税の滞納をしていることと同様です。
したがって何度か督促をおこない支払わなければ、最終的には財産の差し押さえ処分となります。
相続放棄が完了していれば、請求されることはありません。
ただし注意が必要なのは、相続放棄が完了していないとき。相続放棄の手続きをおこない、次の相続人が管理を開始するまで期間は管理義務が発生します。
その間に行政指導や処分、行政代執行となった場合は管理責任が問われる可能性があります。
では行政代執行が実行された空き家数は実際にはどれくらいあるのでしょうか?
国土交通省の発表は以下の表の通りです。
出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」(http://www.mlit.go.jp/common/001295952.pdf)
空き家法の施行された2015年から2018年までで行政代執行・略式代執行(所有者が不明の空き家に対しておこなった行政代執行)合わせて165件でした。
2019年に発表された用途のない空き家数が348万戸ですので、年々増加傾向にはあるものの現時点では行政代執行が実施された数はごく僅かです。
また、行政代執行にくらべ、略式代執行の数が約3倍も多いのが特徴的。所有者不明の特定空き家が多いことがわかります。所有者が不明の場合は自治体の負担も増えてしまい、地域にとってはマイナスです。
出典:地方公共団体の空き家対策の取組事例2
(http://www.mlit.go.jp/common/001239420.pdf)
上記の写真は実際に行政代執行が実施されたものです。
写真を見てみると、ほぼ倒壊している状態で非常に危険度が高いことがわかります。
この所有者に対して自治体は7年間に渡る指導を繰り返してきましたが、空き家法の施行以降、勧告2回、命令1回をした後、約1年後に行政代執行を実施。
解体・除却費用は約410万円で、財産の差し押さえと公売によって費用を回収しています。
その他の行政代執行となった事例は以下です。
所在地 | 措置内容 | 執行日 | 費用 | 概要 |
---|---|---|---|---|
北海道旭川市 | 老朽化した建物の除去 | 2017年8月 | 410万円 | ・S54年建築の木造2階建てのアパート ・積雪により屋根の一部が崩落 ・老朽化による建物の倒壊のおそれ |
埼玉県板戸市 | 物置の屋根ふき材の剥落と飛散防止措置 | 2018年1月 | 65万円 | ・S20年建築の木造2階建ての物置 ・屋根ふき材が剥落、飛散するおそれ ・立木等が隣地及び前面道路に越境 |
千葉県柏市 | 老朽化した建物の除去 | 2017年4月 | 1040万円 | ・S46年建築の鉄骨造3階建ての事務所 (業務縮小後に移転、以降管理不全) ・外壁及び屋根の一部が崩落 |
新潟県十日町市 | 倒壊の恐れある建物の除去 | 2017年1月 | 270万円 | ・S43年建築の木造2階建ての住宅 ・積雪により屋根の一部が崩落 ・積雪による建物の倒壊のおそれ |
山口県周南市 | 建物の一部の除去・補修 | 2017年1月 | 220万円 | ・建築年不詳の木造平屋建ての住宅 ・長年にわたり管理不全状態が継続し、 生活道路に面する外壁の一部が崩落 ・屋根瓦も落下のおそれ |
引用:地方公共団体の空き家対策の取組事例2より作成 (http://www.mlit.go.jp/common/001239420.pdf)
行政代執行にならないためには、特定空き家として指定される状況を避けること。
つまり日ごろからの管理が重要です。建物の補修や修繕、庭木や雑草の手入れなど、定期的なメンテナンスをすることで特定空き家として指定される可能性を減らすことができます。
また管理を徹底しておけば、将来、売却や利活用をする際にも有利な条件で活用できる可能性もあります。
行政代執行になると空き家が強制的に解体・修繕され、その費用は所有者負担です。費用を払うことができなければ財産が差し押さえられることになります。
対策をするなら助言・指導に至るまでに早めに改善をすることが何より得策です。
行政代執行以前の段階で、勧告がされれば固定資産税の軽減措置の撤廃、命令に従わなければ50万円以下の罰金が科せられメリットはありません。
空き家法が施行され、空き家を放置し続けることはもう許されなくなったのです。
「どうしようか」と悩んでいるうちに時間が経過し、空き家はどんどんと劣化していきます。自分だけで解決が難しい場合には専門家に相談してみましょう。
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